ジュニアサッカーの公式戦でのことです。
同点の緊迫した状況で、オフサイドポジションにいる前線の選手にパスが出ました。
明らかなオフサイドであったため、副審はフラッグを上げましたが、主審は笛を吹こうとしません。
気付いていないと思った副審は、フラッグをバタバタと振ってアピールします。
オフサイドと思い足を止めたディフェンスの選手は、主審にアピールしています。
ところが、それでもプレーは止まりません。
そのままプレーは続行され、最終的にそのプレーがきっかけとなりゴールが決まりました。
副審は、主審が気付かなかったのではと、ゴールした後もフラッグをなびかせてアピールを続けています。
それを見た主審が「ワンタッチありました」と副審に声を掛けました。
副審はフラッグを下げ、正式に得点が認められ、結果的に1-0で試合は終了となりました。
「あのプレーはオフサイドのファールじゃないのか…」
負けたチームの選手はモヤモヤとした感情を抱えながら戻っていきます。
悔しそうにしている子供たちを観ていた保護者も、ジャッジへの不満を隠しきれません。
なんとも後味の悪い試合になっていしまいました。
観客の立場から見るべきシーンのポイント
このシーンを振り返ると、観客の立場で見るべきポイントがいくつかありました。
- パスを受けた選手がオフサイドポジションにいたかどうか
- パスを受けた選手がプレーをする意図があったかどうか
- ワンタッチがあったかどうか
- ワンタッチは意図的だったかどうか
このあたりをしっかり見ていれば、試合後に子供から質問があった場合にも論理的に答えることができます。
1.パスを受けた選手がオフサイドポジションにいたかどうか
パスを受けた選手は、明らかにオフサイドポジションにいました。
そのため、副審はフラッグを上げ、ディフェンダーや観客もそれを確認しました。
ここに異議を唱える人はいませんでした。
2.パスを受けた選手がプレーをする意図があったかどうか
オフサイドポジションにいる選手がプレーをする意図がない場合、オフサイドの反則にはなりません。
出されたパスに反応せず「自分は関係ない」とプレーに関与しない場合です。
今回、ボールを受けた選手は相手ゴールへ向かったため、オフサイドの条件に当てはまります。
3.ワンタッチがあったかどうか
主審がオフサイドを取らなかった理由として、ワンタッチがあったことを挙げています。
会話の内容から推測すると、オフサイドポジションにいる選手にボールが出た時、守備側の選手がボールに触れていたようです。
確かに、競り合いの中からパスが出ており、「ババンッ」という音とともに誰かの足に当たってボールが出ているように見えました。
あの密集具合を考えると、守備側の選手の足に当たっていてもおかしくないので、主審の言うようにワンタッチがあったと思われます。
4.ワンタッチは意図的だったかどうか
ワンタッチがあった場合、重要になるのは守備側の選手が意図的にボールに触れたかどうかという点です。
例えば、攻撃側の選手が出したパスに対し、守備側の選手が意図的に蹴ったボールが、ミスによってオフサイドポジションの選手に渡った場合はプレー続行となります。
ところが、攻撃側の選手が出したパスが、意図的でない守備側の選手の体に当たって、オフサイドポジションの選手に渡るとオフサイドとなります。
ワンタッチが意図的であったかどうかの判断は、プレーを一番近くで見ていた主審に委ねられます。
以上の点を踏まえると、今回のジャッジは適切なものであったように考えられます。
もしかしたら、副審は守備側の意図がなかったと判断してフラッグを上げたのかも知れません。
理由はともあれ、オフサイドだと思い足を止めてしまったこと、なぜ笛が鳴らないのかとプレーが消極的になったことが、失点の原因になってしまいました。
” 今のプレーは、ファウルなのかファウルじゃないのか “
ジュニアサッカーの試合では、こういったジャッジに対して、「あれっ?」と思うことが少なくありません。
ですが、それには理由があります。
サッカー協会が主催となる公式戦では、審判員免許が必要となったり、線審や補助審判員をおくことによって公平性が保たれていますが、カップ戦や練習試合では主審一人の場合がほとんどです。
この状況では、どんなに経験のある人でも、広いコートすべてのプレーを正確に判断することは困難です。
ジュニアサッカーの審判は、そういった曖昧さの中で運営されているという事実を知っておく必要があります。
ファウルの基準とジャッジの柔軟性
ジュニアサッカーを主とした8人制サッカーの競技規則には、11人制サッカーと異なる特徴があります。
それは、『できるだけ多くの選手が試合に出て、プレーする機会を増やし、成長できる環境をつくる』という理念がある点です。
そのために、ピッチが小さくコンパクトで、主審の許可がなくても自由に交代でき、交代人数に制限もありません。
ただし、競技規則に定められたファウルの基準は、あくまでも同じです。
基準は同じにしながらも、『子供たちがプレーする機会を増やす』という理念の下、現場の指導者にジャッジの裁量を任せていると言えます。
子供は軽い衝突でも倒れたり、痛がることがよくあるので、感情的にはファウルと感じることも多いですが、そこは観客としても冷静に見るべきです。
ルール通り厳格に試合を進めるのが良いのか、状況を見ながら微妙なファウルは流すのが良いのか。
このあたりは、指導者がどのような目的や考えで笛を吹いているかによって柔軟に変化します。
サッカーの審判は完璧ではない
ここ数年、サッカーにおいても、VARやGLT(ゴールラインテクノロジー)の導入により、映像を使ったビデオ判定がされるようになりました。
ビデオ判定の歴史は意外と古く、大相撲では1969年より導入されています。
テニスや野球など他のスポーツでも正式採用されて久しく、サッカーはかなり遅かったようです。
しかし、判断材料は増えたものの、一流の審判が最新技術を使っても判断が分かれるプレーはまだまだ存在します。
Jリーグ公式チャンネルでは、『Jリーグジャッジリプレイ』という動画コンテンツを配信しています。
この動画では、観客や視聴者が疑問に思ったプレーを取り上げ、JFA審判委員会を含めた有識者の方々が、実際の試合映像を見ながら解説をしてくれます。
レフェリングに関する疑問やルールをわかりやすく解説し、審判についての理解・関心を深めてもらうことが目的です。
ともすると、ミスジャッジを審判自らが認めてしまうことにもなるのですが、選手の心理状況や審判が見ているポイントまで分かりやすく説明しているので、初心者でもより深くサッカーを知ることができる内容になっています。
私たち観客はどうしても自チームへの思い入れが強くなり、一側面の判断をしてしまいがちです。
子供たちに正しいルールやジャッジを教えていくなら、こういった番組で観る側の知識を高めていくことも必要なのかもしれません。
なぜそのミスが起こったのか、それを改善するためにどうしたらよいのかまで、運営側が議論し公開しているところは、他のスポーツがまだ挑戦していない分野だと思います。
その審判は、どこを見てジャッジしているか
選手の中には、シュミレーションといって、いかにもファウルを受けたように演技をし、FKやPKをもらおうとする子供もいます。
プロも使うテクニックですが、育成年代からシュミレーションをすることを多くの指導者は望んでいません。
都度改定されるサッカーの競技規則を規範にしながらも、試合を通して選手個々が成長できる環境をつくろうとしています。
ジュニアサッカーにおいては、競技規則を遵守するがために笛を吹くことが、必ずしも選手のためになるとは限らないということです。
そこにはVARやGLTとは異なる、笛を吹くレフェリーの「いいゲームにしたい」「もっと強くなって欲しい」という想いが込められています。
したがって、オフサイドギリギリのプレーや、激しくとも正しく体をぶつけ合うようなプレーであれば、笛を吹かずに流すことが多くなります。
そのほうが試合の流動性が上がり、結果的に白熱した良いゲームになることを知っているからです。
最新のテクノロジーを使ってもなお、正確に判断できないプレーがあるならば、一人で行う審判のジャッジには曖昧さがあることを理解する。
それよりも、主審がどこを見てジャッジをしているかを試合の流れから読み解いていく。
こっちのほうが次の試合に活かせそうです。
ナイスゲームには、ナイスジャッジが存在する
複数のチームが集まる大会に行くと、決勝や準決勝の試合では高い確率でジャッジが上手い審判が笛を吹いています。
なぜならトーナメントでは、負けたチームから帰って行くからです。
そうすると、強いチームには良い指導者がいるので、結果的にジャッジの質も高くなるという訳です。
ジャッジが上手いと、試合のリズムが良くなり良いプレーが増えていきます。
また、何のファウルかが分かりやすいので、見ている側も気持ちよく観戦することができます。
スローインの反則(投げ方や体の向き)やPKの反則(ボールを蹴る前にキーパーが動くなど)など、育成年代に習得しておくべきファールをしっかり取っている。
ファールになった理由をジェスチャーで選手に伝えている審判は、良い指導者であると言えます。
見ている観客が思わず応援したくなる試合は、強いチーム同士の対戦ばかりではありません。
選手たちの成長する姿や勝ちたいという気持ちが、リズム良く質の高いジャッジに引き出されることで、私たちが感動するゲームになっていくように思います。