2018年ロシアW杯のエンブレムに見える星。この星は、いったい何を意味しているのだろう。
こんな言葉から図鑑は始まります。
なんとなく知っている情報であっても、絵と文字を組み合わせたり、他と比較したり、時系列で把握することで新たな発見があるのが図鑑の良いところです。
今回は「親子で学ぶ サッカー世界図鑑」を読み解くことで、日本のサッカーの現状がどうなっているのかを考えてみたいと思います。
親子で学ぶ サッカー世界図鑑って、どんな本?
親子で学ぶ サッカー世界図鑑 ロシアW杯編 (amazonより)
「親子で学ぶ サッカー世界図鑑」は、2017年12月にエルゴラッソブックスから発売されました。
エルゴラッソは、株式会社スクワッドが発行するサッカー専門新聞です。
紙面がピンク色で、スタジアムで号外が配られることもあるため、定期購読はしていなくとも見たことがあるという人は多いと思います。
ロシアワールドカップ開催に向けたプレビュー本は各出版社から出ていますが、それぞれの国で発展してきたサッカーを、社会や文化を踏まえながら紹介しているのがこの本の特徴です。
親子で学ぶ図鑑とあるだけに、どんなサッカーの歴史があってどんなサッカーが現在行われているかといった、国そのものにフォーカスしています。
子供にとってはサッカーだけでなく外国を正しく知りうる教材になりそうです。
写真やイラストをふんだんに使った大判サイズで、ひとつの国の情報を見開き2ページに収めているため、親子で一緒に眺めながら見ることができるようになっています。
サッカー人口が多い国は、W杯で結果を出しているのか?
今回は「親子で学ぶ サッカー世界図鑑」のデータを使い、32カ国の過去の成績と比較しながら日本のサッカーがどの位置にあるのかを考えてみました。
簡単に言うと、人口が多くサッカーが盛んな国ほど良い結果に繋がるのか?という検証です。
32か国の人口、サッカー人口、サッカー人口割合、W杯出場回数、W杯最高成績、GDPを出して、各項目の上位5番までを色掛けしています。
日本のサッカー人口は、32カ国中6番目
優勝回数の多いドイツやブラジルは、サッカー人口が1000万人を超えていて、イメージ通りサッカーが盛んな国であることが分かります。
中でもドイツは5人に1人の割合でサッカーをしており、男子だけでなく女子サッカーも強い理由が伺えます。
一方で日本のサッカー人口は32カ国中6番目で、同じアジア圏である韓国の約4倍という結果でした。
世界的に見ても日本は多くの人がサッカーを楽しんでいる国であることが分かります。
しかしながら、サッカー人口が多い割には、W杯で結果を残せていないという事実が浮かび上がります。
身体的な問題なのか、育成の問題なのか、それとも強くなる過程にいるということなのでしょうか。
いずれにせよ、サッカーに関わる人の数は他の国に比べて遜色ないものであることがデータから読み解けます。
サッカー人口の割合は、ヨーロッパ・南米が高くアジアが低い
次に全人口に対してサッカーをしている人の割合を調べてみました。
アジアはまだサッカー後進国と言われるだけあって、全人口の2~3%とヨーロッパ・南米勢の約半分になっています。
アフリカ勢よりも割合が低いところをみると、アジアでは野球など他のスポーツに人気が分散している、もしくはサッカー自体の普及率がまだ低いのかもしれません。
一方のデンマークやスウェーデンなど、人口が少なくてもサッカー人口が多い国(≒サッカーが盛んな国)は、出場回数が多く比較的良い結果を残しています。
国内リーグの人気やサッカー中継を放送するメディアの数、周辺国との関係なども大きく関係していそうです。
意外なところでは、ブラジルはサッカー人口は多いものの、割合は6.3%と他の競合国よりもやや低い結果となりました。
ブラジルは国土が広く経済的な格差が大きいため、正式に協議をしているサッカー人口としてカウントされていない人が大勢いるのかもしれません。
GDP上位国は、成績が良くなる傾向がある
国内リーグが盛んで、GDPの高いヨーロッパ諸国は比較的良い成績を残している一方、中南米やアフリカの国は成績が下がっていたり、GSで敗退するケースが増えています。
ロシア、ナイジェリア、韓国など、国全体でサッカーを強化している国は徐々に成績が良くなっています。
おそらく、経済が成長すると強化に使えるお金が増え、施設や選手年棒などの環境が良くなるからだと思います。
また、国内リーグが好調な国であれば世界各国から良い選手が集まるので、より高いレベルで国内選手を鍛えることができます。
アジアでは中国やタイのリーグが年々盛り上がっており、近い将来にW杯を争う競合国となっていきそうです。
選手が掲げたベスト8の目標は妥当だったのか?
ロシアW杯に挑む日本代表選手は、初のベスト8進出を目標に掲げていました。
西野監督は決勝トーナメント進出(ベスト16)を公表していましたが、内々にはベスト8以上を視野に入れていたように思います。
上記データを読み解いていくと、現状の日本のサッカーはナイジェリアのサッカーに近い状態であると言えます。
プレースタイルの違いこそあれ、サッカー人口や全人口に対する割合、W杯出場回数、W杯最高成績は軒並み同等レベルの数値です。
サッカーが好きな人からすると、ナイジェリアは強豪ではあるけど、優勝するまでにはいかない国という印象があります。
調子が良い時は強いけど、そうでないときは牙を抜かれたライオンのように大人しくなる。選手の調子の波が成績に直結するイメージです。
W杯で優勝を目指すなら、スター選手に頼らない戦術や、強豪国と互角に対戦できる監督を招へいするなど、まだまだ改善するところがあります。
得意な形を作らせなければ恐れるに足りない。世界から見た日本もそんなイメージになっているのではないかと思います。
このあたりを踏まえつつ、日本代表の目標がベスト8と聞くと、現実的で妥当な目標であるように思います。
ただその目標は、日本が積み上げてきたサッカーの歴史や知恵や経験をすべて注ぎ込んで、初めて達成できるかどうかの目標です。
なぜならベスト8を競う相手は、過去にベスト8以上を経験した20カ国もの国々であり、虎視眈々と上位進出を狙う11カ国であるからです。
日本がベスト8を達成するために必要なこと
今回「親子で学ぶ サッカー世界図鑑」を読み解きながら、日本がベスト8を達成するために必要なことを2つ考えてみました。
- サッカーレベルの高いヨーロッパへ1人でも多くの選手を送り出す
- アジア圏のサッカー人口を増やし、国内リーグを発展させるとともにサッカーに使えるお金を増やす
やはり、ヨーロッパ圏はサッカーの歴史が古く、良い選手が集まってくるため、サッカーをするための環境が整っていると言えます。
そういったレベルの高い環境下で経験を積み、技術以外のところを含めて身に付けることが大事です。
また、国内リーグを通じてアジア圏でのサッカー人口を増やす。
このことが、サッカー経済を大きくし、結果的にサッカーにまつわるお金を増やすことに繋がっていくように思います。
何となく当たり前の結論になってしまいましたが、私たちが日頃感じている感覚と大きなズレがなかったのが証明されました。
私たちがベスト8進出に向けて具体的にできることは、地元のチームからヨーロッパに挑戦できる選手を育てることだったり、国内リーグの観戦を増やすなどサッカーに関わる消費を増やすことであるように思います。
以前は、サッカーで海外に挑戦するということが夢のような話でしたが、最近はだんだんと身近な話になってきました。
近所の子供が海外に挑戦する、プロ選手になったとなると、その試合を観るためにDAZNに加入したり、実際に現地へ応援しに行くことがあるかもしれません。
そういった各地で起きる小さな波が、少しずつ周りの人を巻き込みながら大きなうねりとなり、社会や経済を動かしていくように思います。
ワールドカップのエンブレムに込められた各国の想い
冒頭で触れたロシアW杯エンブレムの星は、ロシアの国家事業のひとつである宇宙開発を表しています。
大国としての影響力が薄れつつある中で、かつての圧倒的な影響力や存在感を取り戻したい…
エンブレムのデザインには、こうした開催国の想いやオリジナリティが表現されています。
興味のある方は、2022年カタールW杯のエンブレムも読み解いてみると新しい発見があるかもしれません。
JFAは2050年までに2回目のW杯開催を目指しています。
日韓W杯のような共同開催ではなく単独開催となるため、招致に成功すれば日本中が大変盛り上がることが予想されます。
もちろんそうなると大会の象徴となるエンブレムが作られるわけで、そこには日本のサッカーを象徴する何かが描かれます。
試合に出場する日本代表は若くまだ生まれていないかもしれませんが、大会の象徴となるエンブレムには現在生きている私たちの想いやオリジナリティが描かれていくのは確かです。
まずは目標であるベスト8を目指しつつ、エンブレムを身に付けた代表チームが自国開催のW杯で活躍する姿を想像しながら、その日が来るのを楽しみにしたいと思います。