日本で一番のアスリートを決める最高峰の戦い<日本陸上競技選手権大会2021>

2021年6月25日20時34分、雨上あがりの大阪ヤンマースタジアム長居。

日本人最速を決める陸上男子100m決勝は、前日に25歳の誕生日を迎えたばかりの多田修平(住友電工)が制しました。

今大会は、7月に開幕する東京オリンピック代表を決める大一番であり、特に2日目の男子100m決勝は、直近に日本新記録を出した山縣 亮太を始め、9秒97のサニブラウン、9秒98の桐生祥秀と小池祐貴の4人の9秒台が出場することもあって、平日開催にもかかわらず新記録を期待する観客がスタジアムに集まりました。

 

温和な印象のある多田選手ですが、ゴールを切った瞬間に雄叫びをあげる姿や赤く染まった目頭からは、奥に隠れたこれまでの苦悩が透けて見えるようでした。

レース後のスタンドに溢れる多田選手を祝福する拍手と、今まで後塵を拝してきた過去を知る仲間のすすり泣きは、このレースに向けられた人々の思いが凝縮されていたように思います。

 

日本を代表するアスリートが出場し、各種目の日本一を決定する大会である日本陸上競技選手権大会。

日本選手権の名前は聞いたことがあるものの、その実態を知っている人は多くありません。

今回は、日本陸上選手権の観戦を通じて感じたことについて考えてみたいと思います。

「子供の意見を尊重する」という魔法の言葉について考える

 

人知れず行われる、日本最高峰の戦い


1997年に日本選手権の十種競技で優勝したタレントの武井壮さんはこう言っています。

 

「一生懸命努力して日本チャンピオンになったのに、一歩外に出ると誰も俺のことを知らない」

「陸上の日本選手権が満席になっているのを俺は見たことがない、一度も」

 

今年で105回目を迎える日本選手権は、陸上界において伝統と格式のある国内最高峰の大会です。

しかしながら、その権威とは裏腹に、残念ながら陸上関係者以外の注目度が低い大会であるのが現状です。

男子100mで最近日本新記録が出たのは知っているけど、それが誰だったか思い出せない。

9秒台で走る人の顔は頭の中に出てくるけど名前が出てこない。

スポーツは好きだしニュースも見るけど、実際の大会は観たことがない。

こんな人は沢山いるように思います。

 

今回の大阪大会も、コロナ禍で観客数に制限があったこともあり、長居で開催されたことを知らない人は多かったように思います。

オリンピックやニュースで話題になる陸上競技は、リアルに観戦するものではなく、テレビの向こうで行われるスポーツという認識があるのかも知れません。

 

陸上観戦未経験者は、日本選手権を楽しめるのか


2021年の日本選手権は、6月24日(木)から27日(日)の4日間で行われました。

男子100m決勝が行われる2日目は、前売りチケットは完売となっていたことからも、注目が高いレースであったと思います。

 

大会2日目の25日は、競走競技が16、跳躍競技が4、投てき競技が2、合計22の競技がありました。

最初の競技開始が15:00、最後の競技開始が20:30なので、最初から最後まで観ると約6時間競技場にいることになります。

日本一を決める大会とはいえ、食い入るように全ての競技を観る人は多くないように思います。

実際、開場すぐに観覧している人は選手の家族や知人が多く、メインレースが行われる夜が近付くにつれ、席が埋まっていったように思います。

 

陸上の大会は、競走競技、跳躍競技、投てき競技で競技をする場所が異なるため、一度に複数の競技を観ることができます。

例えば、女子棒高跳びの決勝をしている横で、男子三段跳びの決勝をしていて、その内側でU20男子100mの決勝をしているという感じです。

特に競争競技は、コースの準備をしたり、選手がウォーミングアップするので、レースとレースの間に少し間延びする時間が生まれてしまいます。

このあたりは運営側も考えているようで、他の競技で優勝争いがあったり、表彰式を行ったりとタイムスケジュールに工夫がされているようでした。

 

プロ野球やJリーグのように得点が入ったり、ファンサービスがあったりという訳ではないため、あくまでもアマチュアスポーツの頂点を決める大会というスタンスは崩していません。

観戦初心者としては、それぞれの競技の面白さは感じるものの、エンターテイメントとしての魅力は他のスポーツより未成熟(観客がそこまで求めていない)な印象でした。

どちらかというと、競技よりも男子100mをはじめとしたスター選手を観に来ている人が多かったです。

そのためか、分かりやすいスター選手の少ない他の日は、完売していない座席が多かったように思います。

武井壮さんが言う、陸上関係者や選手が頑張ってもスタンドを満員にできない理由は、こういうところにあるように感じました。

 

陸上は、自分以外が敵になるスポーツ


陸上の大会を始めて見に行って分かったことは、個人競技というのは、自分以外が全員敵になるスポーツであるということです。

そのため、選手同士が談笑したり、コミニケーションを取り合う光景はあまり見ることがありません。

野球やサッカーのように要所でショーやイベントが行われ、賑やかな雰囲気で試合が進むスポーツとは明らかに異なっています。

コロナ禍で応援ができないとはいえ、粛々と静かに競技が進んでいく光景は、陸上競技特有のものであると思います。

 

道具へのこだわりと、準備の大切さ


陸上競技は、自分の体以外に競技を行うための様々な道具が必要です。

ユニフォームやシューズといった身に付けるものを始め、日差しを防ぐサングラスや汗を拭くタオルは、自分を邪魔するものであってはなりません。

ハンマー投げや槍投げ、棒高跳びで使う道具は、選手自身が運搬を手配してトラブルなく会場に持ち込まなければなりません。

スタート台やハードルなどの競技用具は、会場によって質感や大きさが微妙に異なっているを知っておかなければなりません。

一番を目指すアスリートは、これらすべての道具を駆使しながら、自らを勝利に繋げていきます。

 

こんな風にアスリートになった気持ちで見ていくと、ハードル競技の試走で、なぜハードルを倒す選手が多いのかが分かってきました。

おそらく、競技場によってハードルの種類が違うので、あえて倒すことでどれくらいの衝撃があるのかを確かめているのだと思います。

また、スタート台は位置だけでなく、しっかり固定できているかを何度も確かめている選手が多かったです。

おそらく、スタートの時に数ミリずれただけでタイムに影響するからだと思います。

過去の失敗を踏まえて、良いレースをするための準備を確実に行う。

1回のレースのために、数十、数百のルーティンやチェックを行いながら、レースまでの時間を過ごしているのが伝わってきました。

 

陸上観戦未経験者が、男子100m決勝に感じたもの


20時過ぎ、『日本で一番早いのは誰か』が決まる男子100m決勝が始まる頃には、その瞬間を見るために多くの観客やマスコミ、大会関係者が集まっていました。

選手が入場してくると、それまでの穏やかな空気とは異なり、観客の熱気と選手から出る凄まじい緊張感がスタンドまでビシビシと伝わって来ます。

「全日本選手権を制すれば、真の日本一としてオリンピック出場権を手に入れることができる」

どっちが勝つのかではなく、誰が勝つのかを見届ける瞬間は、野球やサッカーとは異なる興奮があるように思います。

各自のスタート練習が終わり、着替えをしてレーンに着くまでの間、長居スタジアムのスクリーンには各選手の様子が映されていました。

その時に一瞬映された多田選手は、魂が抜けた抜け殻のような表情をしています。

周りがぞくっとするような、人間離れした表情です。

精神を研ぎ澄まし、早く走ることだけに集中したアスリートは、もはや感情など忘れ去った獣になっているのかもしれません。

 

事実、スタートダッシュをする多田選手は、他の選手よりも姿勢が一段低く、地面を這う肉食動物のように進んでいきます。

あの優しそうな笑顔からは想像できない、純粋なアスリートとして本能剥き出しの姿がそこにあります。

期待されていた日本新記録は出なかったものの、真剣勝負を終えた会場からは『多田が勝った!』というどよめきと拍手が起こっていました。

中央で頭ひとつ抜けているのが多田修平選手

 

ということで、今回は陸上競技初心者の立場で、日本陸上選手権を初めて観た感想をまとめてみました。

コロナ禍でオリンピック出場の選考が1年延びた現状。

思うようにトレーニングできなかった現状。

レース直前に雨が降ってコンディションがあがらない現状。

今年の日本陸上選手権は、選手だけでなくコーチや観客、運営する人々にとって、様々な感情がうごめく大会であったように思います。

もし、あなたの子供がアスリートを目指し、もし、近くで日本選手権が開催されるなら、日本一が決まる瞬間を生で観てみてはいかがでしょうか。

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